『カラマーゾフの兄弟』第10篇
第七 イリューシャ 医師はまた毛皮の外套にくるまり、帽子をかぶって出て来た。彼は腹だたしそうな気むずかしい顔つきをしていた。それは何か汚いものに触れるのを恐れているようであった。彼はちらりと玄関のほうへ視線を投げ、その拍子にいかつい目つきで…
第六 早熟「あなたは、医者がイリューシャのことを、どう言うと思います?」とコーリャは口早に言った。「それにしても、なんていやな面でしょう、僕は医者ってものが癪にさわってたまりませんよ!」 「イリューシャはもう駄目でしょう。私にはどうもそう思…
第五 イリューシャの寝床のそばで もはやわれらにとって馴染みの深いその部屋には、同じく馴染みの深い休職二等大尉スネギリョフの家族が住まっていたが、このとき狭い部屋の中は大勢の人で一ぱいになって、息苦しいほどであった。幾たりかの子供たちも、イ…
第四 ジューチカ コーリャはもったいらしい顔つきをして塀にもたれ、アリョーシャが来るのを待っていた。実際のところ、彼はもうずっと以前から、アリョーシャに会いたかったのである。彼は子供だちから、アリョーシャのことをいろいろ聞いていたが、今まで…
第三 生徒たち けれど、コーリャにはもうこの言葉は聞えなかった。彼はやっと出かけることができた。門の外へ出ると彼はあたりを見まわし、肩をすぼめ、『ひどい寒さだ!』とひとりごちて、通りをまっすぐに歩いて行ったが、とある横町を右へ折れて、市《い…
第二 幼きもの ちょうど、この寒さの激しい、北風の吹きすさぶ十一月の朝、コーリャはじっと家に坐っていた。日曜日で学校は休みであった。しかし、もう十一時も打ったので、彼はぜひとも『ある非常に重大な用事のために』外へ出かけなければならなかった。…
第十篇 少年の群 第一 コーリャ・クラソートキン 十一月の初旬であった。この町を零下十一度の寒さがおそって、それと同時に薄氷が張り初めた。夜になると、凍てついた地面に、ばさばさした雪が少しばかり降った。すると『身を切るようなから風』がその雪を…