『白痴』_400文字に1か所の誤字

『ドストエーフスキイ全集8 白痴 下 賭博者』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP145-165

ルレルが花嫁に手をさし伸べたとき、とつぜん彼女はひと声高く叫んで、いきなり階段から群集の中へ飛びこんだ。付添いの人々は驚きのあまり、化石のようになってしまった。群集は彼女の前にさっと道を開いた。と、階段から五、六歩のあたりに、とつぜんラゴ…

『ドストエーフスキイ全集8 白痴 下 賭博者』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP097-144

つぜん彼はイヴァン将軍が隔てのないふうで、自分の肩をぽんとたたくのに気がついた。アングロマンも同様に笑っている。しかしそれよりもっと親切で気持ちのいい、同情のある態度を示したのは老政治家である。この人は公爵の手を取って軽く握りしめ、いま一…

『ドストエーフスキイ全集8 白痴 下 賭博者』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP049-096

に輝きはじめた。「いや、公爵、じつに偉大な光景でしたよ! まったくわしはすんでのことで、彼についてパリヘ行ってしまおうとした。そして、もちろん、『暑苦しい幽閉の島』へもいっしょに渡りかねなかったが、しかし、――悲しいかな! ふたりの運命は引き…

『ドストエーフスキイ全集8 白痴 下 賭博者』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP005-048

第四編 1 本編の二主人公が、緑色のベンチであいびきしてこのかた、一週間ばかりたった。ある朗らかな朝の十時半ごろ、知り合いのだれ彼を訪問に出たヴァルヴァーラ・プチーツィナは、ひどくうち沈んだもの思わしげな様子で、家へ帰ってきた。 世間には一言…

『ドストエーフスキイ全集7 白痴 上』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP433-483

戸をたたく音がするので目をさました。もし九時すぎまでぼくが自分で戸をあけず、また茶をよこすように声をかけなかったら、マトリョーナが自分で戸をたたくことに規定してあるのだ。で、ぼくは彼女のために戸をあけてやったが、そのときすぐに、戸はこうし…

『ドストエーフスキイ全集7 白痴 上』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP385-432

もって取り返しをつけるからいい』とこう考えるからだよ……」 ラゴージンは聞き終わって、高らかに笑った。 「おい、どうだね、公爵、おめえも自分でなにかの拍子に、そんな女の手に落ちたことがないかい? おれはおめえのことでちょっと聞きこんだことがある…

『ドストエーフスキイ全集7 白痴 上』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP337-384

「あの女[#「あの女」に傍点]と結婚するためでないってことを、お誓いなさい」 「なんでもお望みのものにかけて誓います!」 「あんたのいうことをほんとうにします。さ、わたしに接吻してちょうだい。ああ、やっとこれで自由に息がつける。だけどね、ア…

『ドストエーフスキイ全集7 白痴 上』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP289-336

あ、思ったとおりだ。今になってぼくの推察の正しかったことが、やっとこの目に見えて来た」公爵は相手の興奮を静めようと熱中して諄々と説いたが、かえってそれが興奮をかき立てるばかりなのに気づかなかった。 「なんですって? 何が見えて来たんです?」…

『ドストエーフスキイ全集7 白痴 上』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP241-288

正確なのは、レーベジェフが例の甥をも内々尊敬していることだ! とはいうものの、彼がこれらの人たちについて、早計な推断をするのはどうしたことか、きょうはじめて訪問したばかりの彼が、こんな臆測をたくましゅうするのはなんとしたことか! しかし、き…

『ドストエーフスキイ全集7 白痴 上』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP193-240

常な興味をもって事件の成り行きをながめていたのである。しかし、彼はただ事件の実際方面についてのみ報告した。その話によると、彼は公爵のためを思って、公爵――ことにその指導者たるサラーズキンの行為を注視するように、モスクワのある方面で勢力のある…

『ドストエーフスキイ全集7 白痴 上』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP145-192

くのことを悪く思うだろう。あるいは通してくれるにしても、面と向かってぼくを笑いぐさにするに違いない……えい、かまうもんか!』じっさい、彼はまだこんなことにはたいしてびくつきはしなかった。しかし、『中へ通されたときにはどうしたらよかろう、そし…

『ドストエーフスキイ全集7 白痴 上』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP097-144

20240329 60分、ざっと校正、097-130、全部は校正なかった。 みなりはきわめて質素で、なにかしら黒っぽい、まるで年寄じみたこしらえであるが、その物腰から話しぶり、すべての身のこなしは、この人がかつては上流の社交界をも見て来た婦…

『ドストエーフスキイ全集7 白痴 上』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP049-096

イヴォルギンのことだが、これが全身の熱情を傾けてナスターシヤを愛し、彼女の好感を得るという単なる希望のためでも、命を半分なげ出しても惜しくないと思っている。これはずっと以前ガヴリーラが自分でトーツキイに、純なる青年の心から隠さず白状したこ…

『ドストエーフスキイ全集7 白痴 上』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP005-048(1回目の校正完了)

白痴第一編 1 十一月下旬のこと、珍しく暖かい、とある朝の九時ごろ、ペテルブルグ・ワルシャワ鉄道の一列車は、全速力を出してペテルブルグに近づきつつあった。空気は湿って霧深く、夜はかろうじて明けはなれたように思われた。汽車の窓からは、右も左も…