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フョードル・ドストエフスキー(1821-1881)の全作品の電子化をめざしている人のブログです

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第六章 早熟

   第六 早熟

「あなたは、医者がイリューシャのことを、どう言うと思います?」とコーリャは口早に言った。「それにしても、なんていやな面でしょう、僕は医者ってものが癪にさわってたまりませんよ!」
「イリューシャはもう駄目でしょう。私にはどうもそう思われます」とアリョーシャは沈んだ声で答えた。
「詐欺師! 医者ってやつは詐欺師ですよ! だけど、カラマーゾフさん、僕はあなたにお目にかかったことを喜んでいます。僕はとうからあなたと近づきになりたかったんです。ただ残念なのは、僕たちがこんな悲しむべき時に出会ったことです……」
 コーリャは何かもっと熱烈で、もっと大袈裟なことを言いたくてたまらなかったが、何かが彼を押えているようであった。アリョーシャもこれに気がついたので、にっこりとして彼の手を握りしめた。
「僕はもうとっくからあなたを、世にも珍らしい人として尊敬していました。」コーリャはせきこんで、しどろもどろの調子でまたこう呟いた。「僕はあなたが神秘派で、修道院におられたことを聞きました。僕はあなたが神秘派だってことを知っていますが……それでも、あなたに接近したいという希望を捨てなかったんです。現実との接触がそれを癒やしてくれるでしょう……あなたのようなたちの人はそうなるのがあたりまえなんです。」
「一たい何を君は神秘派と呼ぶんです? そして、何を癒やしてくれるんです?」と、アリョーシャはいささか驚いて反問した。
「まあ、その、神だの何だのってものです。」
「何ですって、一たい君は神様を信じないのですか?」
「それどころじゃありません。僕も神には少しも異存ありません。むろん神は仮定にすぎないです……けれど……秩序のために……世界の秩序といったようなもののために、神が必要なことは認めています……だから、もし神がなければ、神を考え出す必要があったでしょう。」コーリャはだんだん顔を赤くしながら、こうつけたした。
 彼は突然こんな気持がしてきたのである、――今にもアリョーシャが、お前は自分の知識をひけらかして、自分が『大人』だってことを相手に示そうとしているのだ、とこう思うに違いない。『だが、僕はちっともこの人に、自分の知識なんかひけらかしたくはないんだ。』コーリャは憤然としてこう考えた。と、彼は急に恐ろしくいまいましくなった。
「僕は正直に言うと、こんな議論を始めるのがいやでたまらないんです」と彼は断ち切るように言った。「神を信じないでも、人類を愛することはできます、あなたはどうお考えですか? ヴォルテールは神を信じなかったけれど、人類を愛していました!」(また! また! と、彼は心の中で考えた。)
ヴォルテールは神を信じていました。が、その信仰はごく僅かだったようです。したがって人類に対する愛も僅かだったようです。」アリョーシャは静かに、控え目に、そしてきわめて自然にこう言った。それはいかにも自分と同年輩のものか、あるいは自分より年上のものとでも話すようなふうであった。
 アリョーシャがヴォルテールに関する自説に確信がなく、かえって小さいコーリャにこの問題の解決を求めるようなふうなので、コーリャはひどく驚かされた。
「が、君はヴォルテールを読みましたか?」とアリョーシャは言った。
「いえ、読んだというわけじゃありません……が、『カンディーダ』なら、ロシヤ語訳で読みました……古い怪しげな訳で、滑稽な訳で……」(また、また! と、彼は心の中で叫んだ。)
「で、わかりましたか?」
「ええ、そりゃあもうすっかり……つまり……しかし、なぜあなたは僕にわからなかったかもしれないと思うんです? むろん、あの本には俗なところがたくさんありました……僕もむろんあれが哲学的な小説で、思想を現わすために書いたものだってことはわかりました……」コーリャはもうすっかり、しどろもどろになってしまった。「僕は社会主義者です、カラマーゾフさん、僕は曲げることのできない社会主義者なんです。」彼は何の連絡もなくだしぬけにこう言って、ぶつりと言葉を切った。
社会主義者ですって?」とアリョーシャは笑いだした。「一たい君はいつの間に、そんなことができたんです? だって、君はまだやっと十三くらいでしょう?」
 コーリャはやっきとなった。
「僕は十三じゃない、十四です。二週間たつと十四になるんです。」彼は真っ赤になった。「それに僕の年なんか、この問題にどんな関係があります? 問題はただ僕の信念いかんということで、年が幾つかってことじゃないのです。そうじゃありませんか?」
「君がもっと年をとったら、年齢が信念に対してどんな意味をもつかということが、ひとりでにわかってきますよ。それに、私は、君の言われることが、自分の言葉でないような気がしましたよ」とアリョーシャは謙遜な、落ちついた調子で答えた。が、コーリャはやっきとなって、彼の言葉を遮った。
「冗談じゃない、あなたは服従神秘主義を望んでいらっしゃるんですね。たとえば、キリスト教が下層民を奴隷とするために、富貴な階級にのみ仕えていたということは、お認めになるでしょう。そうでしょう?」
「ああ、君が何でそんなことを読んだか、私にはちゃんとわかっています。きっと誰かが君に教えたんでしょう!」とアリョーシャは叫んだ。
「冗談じゃない、なぜ読んだものときまってるんです。僕は決して誰からも教わりゃしません。僕自分ひとりだってわかります……それに、もしお望みとあれば、僕はキリストに反対しません。キリストはまったく人道的な人格者だったのです。もし彼が現代に生きていたら、それこそ必ず革命家の仲間に入っていて、あるいは華々しい役目を演じたかもしれません……きっとそうですとも。」
「まあ、一たい、一たい君はどこからそんな説を、しこたま仕入れて来たんです? 一たいどんな馬鹿とかかり合ったんです!」とアリョーシャは叫んだ。
「冗談じゃない。では、しようがない、隠さずに言いますがね。僕はある機会からラキーチン君とよく話をするんです。しかし……そんなことは、もうベリンスキイ老人も言ってるそうじゃありませんか。」
「ベリンスキイが? 覚えがありませんね。あの人はどこにもそんなことを書いていませんよ。」
「書いてなけりゃ言ったんでしょう、何でもそういう話です。僕はある人から聞いたんですがね……だが、ばかばかしい、どうだっていいや……」
「では、君ベリンスキイを読みましたか?」
「それはですね……いや……僕ちっとも読まなかったんです。けれど……なぜタチヤーナがオネーギンと一緒に行かなかったか、ということを書いたところだけ読みました。」
「どうしてオネーギンと一緒に行かなかったか? 一たい君にはそんなことまで……わかるんですか?」
「冗談じゃない、あなたは僕のことを、スムーロフと同じような子供と思ってるようですね」とコーリャはいらだたしげに歯を剝いた。「けれど、どうか僕をそんな極端な革命家だとは思わないで下さい。僕はしょっちゅうラキーチンと意見の合わないことが多いんです。ところで、タチヤーナのことを言ったのは、決して婦人解放論のためじゃありません。実際、女は服従すべきもので、従順でなければなりません。Les femmes tricottent(女は編物でもしておればいい) とナポレオンが言ったとおり」とコーリャはなぜかにやりと笑った。「少くとも、僕はこの点において、まったくこのえせ[#「えせ」に傍点]偉人と信念を同じゅうしています。たとえば、僕もやはり、祖国を棄てて、アメリカへ走るなんてことは、下劣なことだと思っています、下劣どころか無知なことだと思っています。ロシヤにいても十分人類を利することができるのに、なぜアメリカなんかへ行くんです? しかも今日のような場合、有益な活動の領域がいくらでもあるんですからね。僕はこう答えてやりました。」
「え、答えたんですって? 誰に? 誰かが君にアメリカへ行けとでも行ったんですか?」
「実のところ、僕はけしかけられたけれども、拒絶したんです。これはね、カラマーゾフさん、むろんここだけの話ですよ。いいですか、誰にも言わないようにして下さい。あなただけに言うんですからね。僕は第三課(帝政時代のロシヤ政府に設けられた保安課)ヘぶち込まれて、ツェプノイ橋のそばで勉強するなんか真っ平です。

  ツェグノイ橋の袂なる
  かの建物を記憶せん!

 ご存じですか? 立派なものでしょう! なぜあなたは笑ってらっしゃるんです? まさか、僕がでたらめを並べてるとは、思ってらっしゃらないでしょうね?」(だが、もしカラマーゾフが、お父さんの書棚にこの『警鐘』(ヘルツェンがロンドンで発行した雑誌)がたった一冊しかないことや、僕がそれよりほかこの種類のものを何にも読んでないことを知ったらどうだろう? コーリャはふとこう考えついて、思わずぞっとした。)
「どうしてどうして、そんなことはありません。私は笑ってやしません。君が嘘を言われるなんてまったく考えてもいません。それこそ本当に、そんなこと考えてやしませんよ。なぜって、悲しいことには、それがみんな本当のことなんですものね! ときに、君はプーシュキンを読みましたか、『オネーギン』を……いま君は、タチヤーナのことを言ったじゃありませんか?」
「いいえ、まだ読みませんが、読みたいとは思っています。カラマーゾフさん、ぼくは偏見を持っていませんから、両方の意見を聞きたいと思っているのです。なぜそんなことを訊くんですか?」
「なに、ただちょっと。」
「ねえ、カラマーゾフさん、あなたは僕をひどく軽蔑していらっしゃいますね?」とコーリャは投げつけるように言い、喧嘩腰といったような恰好で、アリョーシャの前にぐいと身を伸ばした。「どうかぴしぴしやって下さい、あてこすりでなしに。」
「あなたを軽蔑しているって?」アリョーシャはびっくりしてコーリャを見た。「そりゃどうしてです? 私はただ、あなたのようなまだ生活を知らない美しい天性が、そういうがさつな愚論のために片輪にされてるのが、淋しいんですよ。」
「僕の天性なんか心配しないで下さい」とコーリャは少々得意げな調子で遮った。「しかし、僕が疑りぶかい人間だってことは、そりゃまったくそのとおりです。ばかばかしく疑りぶかいんです。もう下司っぽいほど疑りぶかいんです。あなたは今お笑いになりましたが、僕はもう何だか……」
「ああ、私が笑ったのは、まるでほかのことですよ。私が笑ったのは、こういうわけなんです。以前ロシヤに住んでいたあるドイツ人が、現代ロシヤの青年学生について述べた意見を、私は近ごろ読んでみましたが、その中に『もしロシヤの学生にむかって、彼らが今日までぜんぜん何の観念も持っていなかった天体図を示したなら、彼らはすぐ翌日その天体図を訂正して返すであろう』とこう書いてありました。このドイツ人はロシヤの学生が何らの知識も持たないくせに、放縦な自信家だということを指摘したんです。」
「ええ、そうです、それはまったくそのとおりですよ!」コーリャは急にきゃっきゃっと笑いだした。「最上級に正確です、寸分相違なし! ドイツ人、えらい! けれど、やっこさん、いい方面を見落しやがった、あなたはどうお思いですか? 自信、――それはかまわないじゃありませんか。これはいわば若気のいたりで、もし直す必要があるとすれば、やがて自然に直りますよ。けれども、そのかわりドイツっぽのように、権威の前に盲従する妥協的精神と違って、ほとんど生来からの不羈の精神、思想と信念の大胆さがあります……だが、とにかくドイツ人はうまいことを言ったものですね! ドイツ人、えらい! が、それにしても、ドイツ人は締め殺してやらなけりゃなりません、彼らは科学にこそ長じていますが、それにしても締め殺さなけりゃなりません……」
「何のために締め殺すんです?」とアリョーシャは微笑した。
「ええ、僕はでたらめを言ったかもしれません。それは同意します。僕はどうかすると、途方もない赤ん坊になるんです。何か嬉しくなってくると、たまらなくなって、恐ろしいでたらめを言いかねないんです。だけど、僕らはここでくだらないことを喋っていますが、あの医者はあそこで何やら、長いことぐずついていますね。もっとも、『おっ母さん』だの、あの脚の立たないニーノチカだのを診察してるのかもしれません。ねえ、あのニーノチカは僕気に入りましたよ。僕が出て来る時に、『なぜあなた、もっと早くいらっしゃらなかったの?』って、だしぬけに小さい声で言うじゃありませんか。何ともいえない責めるような声でね! あのひとはとても気だての優しい、可哀そうな娘さんのように思われます。」
「そうです、そうです! 君もこれからここへ来ているうちに、あのひとがどんな娘さんかってことがわかりますよ。ああいうひとを知って、ああいうひとから多くの価値ある点を見いだすのは、あなたにとって非常に有益なことです」とアリョーシャは熱心に言った。「それが何よりも工合よく君を改造してくれるでしょう。」
「ええ、実に残念ですよ。どうしてもっと早く来なかったろうと思って、自分で自分を責めているんです」とコーリャは悲痛な調子で叫んだ。
「そうです、実に残念です。君があの哀れな子供に、どんな喜ばしい印象を与えたか、君自身ごらんになったでしょう。あの子は君を待ちこがれながら、どれくらい煩悶したかしれません。」
「それを言わないで下さい! あなたは僕をお苦しめになるんです。しかし、それも仕方がありません。僕が来なかったのは自愛心のためです、利己的自愛心と下劣な自尊心のためです。僕はたとえ一生涯くるしんでも、とうていこの自尊心からのがれることはできません。僕は今からちゃんとそれを見抜いています。カラマーゾフさん、僕はいろんな点から見てやくざ者ですよ!」
「いや、君の天性は曲げ傷つけられてこそいるが、美しい立派なものです。なぜ君があの病的に敏感な高潔な子供に対して、あれだけの感化を与えることができたか、私にはちゃんとわかっています!」とアリョーシャは熱心に答えた。
「あなたは僕にそう言って下さいますが」とコーリャは叫んだ。「僕はまあ、どうでしょう、僕はこう考えたんです、――現に今ここでも、あなたが僕を軽蔑していらっしゃるように考えていました! ああ、僕がどれくらいあなたのご意見を尊重してるか、それがあなたにわかったらなあ!」
「だが、君は本当にそれほど疑りぶかいんですか? そんな年ごろで! ねえ、どうでしょう、私はあそこの部屋で、君の話を聞きながらじっと君を見て、この人はきっと、むしょうに疑りぶかい人に違いない、とこう思いましたよ!」
「もうそう思ったんですか? それにしても、あなたの目はなんて目でしょう。ごらんなさい、ごらんなさい! 僕、賭けでもしますが、それは僕が鵞鳥の話をしていた時でしょう。僕もちょうどその時、あんまり自分をえらい者に見せかけようとあせるので、かえってすっかりあなたに軽蔑されてるような気がしました。そして、それがために急にあなたが憎くなって、くだらない話の連発をはじめたんです。それから(これはもう今ここでのことですが)、『もし神がないものなら、考え出す必要がある』と言った時にも、自分の教養をひけらかそうとあせったのだ、というような気がしました。ことにこの句はある本を読んで覚えたんですからね。けれど僕、誓って言いますが、あんなに急いで自分の教養をひけらかそうとしたのは、決して虚栄のためじゃないんです。何のためだか知りませんが、たぶん嬉しまぎれでしょう……もっとも、嬉しまぎれに有頂天になって、人の頸っ玉に嚙りつくような真似をするのは、深く恥ずべきことですけれど、確かに嬉しまぎれのようでした。それは僕わかっています。けれど今はそのかわり、あなたが僕を軽蔑していらっしゃらないってことを信じています。そんなことはみんな僕自分[#「僕自分」はママ]で考え出した妄想です。ああ、カラマーゾフさん、僕は実に不幸な人間ですね。僕はどうかすると、みんなが、世界じゅうのものが僕を笑ってるんじゃないかというような、とんでもないことを考えだすんです。僕はそういう時に、そういう時に、僕は一切の秩序をぶち壊してやりたくなるんです。」
「そして、周囲のものを苦しめるんでしょう」とアリョーシャは微笑した。
「そうです、周囲のものを苦しめるんです、ことにお母さんをね。カラマーゾフさん、僕はいまとても滑稽でしょう?」
「まあ、そんなことを考えないほうがいいですよ、そんなことは、ぜんぜん考えないがいいです![#「考えないがいいです!」はママ]」とアリョーシャは叫んだ。「滑稽が何です? 人間が滑稽なものになったり、あるいはそういうふうに見えたりすることは、いくらあるかしれません。今日ではみんな才能のあるひとたちが、滑稽なものになることをひどく恐れて、そのために不幸になってるんですよ。ただ私が驚くのは、君がそんなに早く、これを感じはじめたことです?[#「ことです?」はママ] もっとも、私はもうとっくから、ただ君ばかりでなく、多くの人にそれを認めていたのですがね。今日ではほとんど子供までが、これに苦しむようになっています。それはほとんど狂気の沙汰です。この自愛心の中に悪魔が乗り移って、時代ぜんたいを荒らし廻ってるんです、まったく悪魔ですよ。」じっと熱心に相手を見つめていたコーリャの予期に反して、アリョーシャは冷笑の影もうかべずに言いたした。「あなたもすべての人たちと同じです」とアリョーシャは語を結んだ。「つまり、大多数の人たちと同じですが、ただみんなのような人間になってはいけません、ほんとに。」
「みんながそうなのに?」
「そうです、たとえみんながそうであっても、君ひとりだけそんな人間にならなけりゃいいんです。それに、実際、君はみんなと同じような人じゃありません。現に君は今も、自分の悪い滑稽な点さえ認めることを、恥じなかったじゃありませんか。まったく、こんにち誰がそういうことを自覚してるでしょう? 誰もありゃしません。その上、自分を責めようという要求さえも起きないんです。どうかみんなのような人間にならないで下さい。たとえそういう人間でないものが、ただ君ひとりだけになっても、君はそういう人間にならないで下さい。」
「実に立派だ! 僕はあなたを見そこなわなかった。あなたは、人を慰める力を持っていらっしゃる。ああ、カラマーゾフさん、僕はどんなにあなたを慕っていたでしょう。どんなに以前から、あなたに会う機会を待っていたでしょう。じゃ、あなたもやはり、僕のことを考えていられたんですか? さっきそうおっしゃったでしょう、あなたも僕のことを考えてたって?」
「そうです、私は君のことを聞いて、やはり君のことを考えていました……もっとも、君はいくぶん、自愛心からそんなことを訊いたのでしょうが、そりゃ、なに、かまいませんよ。」
「ねえ、カラマーゾフさん、僕たちの告白はちょうど恋の打ち明けに似ていますね」とコーリャは妙に弱々しい羞恥をふくんだ声で言った。「それは滑稽じゃないでしょうか、滑稽じゃないでしょうか?」
「ちっとも滑稽じゃありませんよ。それに、よしんば滑稽でもかまやしませんよ。それはいいことですものね」とアリョーシャははればれしく微笑した。
「ですがねえ、カラマーゾフさん、あなたはいま僕と一緒にいるのを、恥しがってらっしゃるようですね……それはあなたの目つきでわかっています。そうでしょう?」コーリャは妙に狡猾な、しかし一種の幸福を感じたようなふうで、にたりと笑った。
「何が恥しいんです?」
「じゃ、なぜあなたは顔を赤くしたんです?」
「それは、君が赤くなるようにしむけたんです!」アリョーシャは笑いだした。実際、彼は顔じゅう真っ赤にしていた。「だが、そうですね、少しは恥しいようですね、なぜかわからないんですがね、なぜか知らないんですがね……」彼はほとんどどぎまぎしたようにこう呟いた。
「ああ、僕はどんなにかあなたを愛してるでしょう。どんなにこの瞬間あなたを尊重してるでしょう! それはつまり、あなたが僕と一緒にいるのを、恥しがっていらっしゃるためです。なぜって、あなたはちょうど僕と同じだからですよ!」コーリャはすっかり夢中になってこう叫んだ。彼の頬は燃え、目は輝いた。「ねえ、コーリャ、君は将来非常に不幸な人間になりますよ。」アリョーシャはなぜか突然こう言った。
「知っています、知っています。本当にあなたは何でも先のことがおわかりになりますね!」とコーリャはすぐ承認した。
「だが、ぜんたいとしては、やはり人生を祝福なさいよ。」
「そうですとも! 万歳! あなたは予言者です! ああ、カラマーゾフさん、僕らは大いに意気相投合しますね。ねえ、いま僕を一ばん感心させたのは、あなたが僕をまったく同等の扱いになさることです。だけど、僕らは同等じゃありません。そうです、同等じゃありません、あなたのほうがはるかに上です! けれども、僕らは一致しますよ。実はねえ、先月のことでした、『僕とカラマーゾフさんは、親友としてただちに永久に一致するか、あるいは最初から敵となって、墓に入るまで別れるかだ!』とこうひとりで言ったんですよ。」
「あなたがそう言った時には、むろんもう私を愛していたんです!」とアリョーシャは愉快そうに笑った。
「愛していました、非常に愛していました、愛すればこそ、あなたのことを、いろいろと空想していたのです! どうしてあなたは何でも前からわかるんでしょうね? ああ、医者が来ました。ああ、一たい何と言うんだろう。どうです、あの顔つきは!」
 
(底本:『ドストエーフスキイ全集13 カラマーゾフの兄弟下』、1959年、米川正夫による翻訳、河出書房新社