『カラマーゾフの兄弟』第3編
び声を聞きつけて、部屋の中へ駆け込んだ。一同は彼女の方へ飛びかかった。 「ええ、帰るわ。」長椅子から婦人外套《マンチリヤ》を取りながら、グルーシェンカはそう言った。「アリョーシャ、わたしを送ってちょうだいな!」 「お帰んなさい、はやくお帰ん…
老人はその目の光にびくっとした。しかし、その時、ほんの一瞬間ではあったけれども、きわめて奇怪な錯誤が生じたのである。その際老人の頭から、アリョーシャの母はすなわちイヴァンの母である、という想念が脱け出してしまったらしい。 「お前の母親がどう…
で、甘いものと一緒にコニヤクを飲むのが好きであった。イヴァンも同じく食卓に向ってコーヒーを啜っていた。二人の下男、グリゴーリイとスメルジャコフとがテーブルのそばに立っていた。見受けたところ、主従とも並みはずれて愉快に元気づいているらしい。…
間てやつは自分の痛いことばかり話したがるものだよ。いいかい、今度こそ本当に用談に取りかかるぜ。」[#3字下げ]第四 熱烈なる心の懺悔―思い出[#「第四 熱烈なる心の懺悔―思い出」は中見出し]「おれはあっちにいる頃、ずいぶん放埒をつくしたものだ…
「わからにゃわからんでええ。しかし、それはそうに違えねえだ。もうこのさき口いきくなよ。」 そして、本当に二人はこの家を去らなかった。フョードルは夫婦の者に僅かな給金を定めて、ちびりちびりと支払うのであった。しかし、グリゴーリイは疑いもなく主…
想念を押しこたえることができなかった。それほど自分で自分の思いに心をひしがれたのである。彼は径の両側につらなる、幾百年かへた松の並木をじっと見つめた。その径は大して長いものでなく、僅か五百歩ばかりにすぎなかった。この時刻に誰とも出くわすは…