2001-01-01から1年間の記事一覧
全体として、彼はしじゅう勝ち誇ったような状態になっていた。彼女は山上の垂訓を通読した。 「Assez, assez, mon enfant(たくさんだ、たくさんだ、わが子よ)たくさんです……いったいあなたはこれだけ[#「これだけ」に傍点]でも不十分だと思うんですか?…
いては、きみはぜんぜん安心して可なりです、――密告などしやしません」 彼はくるりとくびすを転じて、すたすた歩き出した。 「畜生、あいつ途中であの連中に会って、シャートフに告げ口をするに相違ない!」とピョートルは叫んで、いきなりピストルをつかみ…
の思いに沈めるのであった。リプーチンはとうとう彼が憎くてたまらなくなって、どうしてもその顔から目が放せないほどだった。それは一種の神経的発作ともいうべきものであった。彼は相手の口ヘほうり込むビフテキのきれを、一つ一つ数えながら、その口がぱ…
へ投げかけた。その露骨な刺すような光は、これらの人々のびくびくした様子にあまりにも不調和な感じを与えるのであった。 「その様子がわたしの胸へぐっと来ましたの。そのとき初めて、わたしもレムブケーのことを感づくようになりました」とユリヤ夫人は後…
[#1字下げ]第三編[#「第三編」は大見出し] [#3字下げ]第1章 祭――第一部[#「第1章 祭――第一部」は中見出し] [#6字下げ]1[#「1」は小見出し] 祭はシュピグーリン騒ぎの日の、さまざまな奇怪な出来事にも妨げられず、いよいよ開催され…
結果の……どうやらわたしはいま広場できみを見受けたようですな。しかし、恐れたまえ。きみ、恐れたまえ。きみの思想の傾向はちゃんとわかっている。よろしいか、わたしはこのことを含んでおくから。わたしはね、きみ、きみの講演なぞさし許すわけにはいかん…
て、何がわかるものですか」 「なあに、われわれ自身でさえ、なんのことだかわからないんじゃないか」とだれかの声がつぶやいた。 「いいえね、わたしがいうのは、要心はいつでも大切だということです。万一、密偵なんかのあった場合を思いましてね」と、彼…
よ。ところが、それがかえっていけないんです。読者は依然としておめでたいんですから、賢明なる人士は彼らに衝動を与えてやるべきじゃありませんか。それだのに、あなたは……いや、しかし、もうたくさんです、失礼しました。これを根に持って怒らないように…
ど、その花々しい政治的活動も、あまねく知れわたっていた。ところが、こんど急にニコライが、K伯爵令嬢の一人と婚約したという噂を、疑う余地もない事実のように世間でいい出した。そのくせ、こういう噂の起こった正確な動機は、だれひとり説明ができなかっ…
いのキリーロフの胸に、毒を注ぎ込んでいたのです……きみはあの男の心に虚偽と讒誣とを植えつけて、理知を狂わしてしまったのです……まあ、行って、今のあの男の様子をご覧なさい。あれがきみの創造物です……もっとも、きみはもう見たんでしょうね」 「ぼくは断…
リーザの世話を焼きながら、自分でもその傍へ並んで腰をかけた。ちょうどからだの明いたピョートルはすぐさまそのほうへ飛んで行って、早口に面白そうにしゃべり出した。この時ニコライは例のゆったりした足どりで、とうとうダーリヤの傍へ近寄った。ダーシ…
た。「シャートフ、おい兄弟![#ここから2字下げ] われは来りぬ汝《な》がもとに 日の昇りしを告げんため もーゆーるがごときかがやきの 木々に……慄うを語るため わが目ざめしを(こん畜生!)小枝の下に わが目ーざーめしを語るため [#ここで字下げ終…
「きみの話があんまり意外なもんだから……」とスチェパン氏はへどもどした調子でいった。「わたしはどうも本当にならんよ……」 「まあ、待ってください、待ってください」と、まるで相手の言葉も耳に入らないようなふうで、リプーチンはさえぎった。「まあ、こ…
なった。知事は優しい、感じやすい人であったから、非常にばつの悪い思いをした。しかし、ここに面白いことは、ああいう処置を取った以上、彼もニコライが完全な判断力を持っているにもせよ、どんな気ちがいじみたことをやりだすかわからない人間だ、と考え…
悪霊 Бесы ドストエーフスキイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)曠野《あらの》|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)二|節《せつ》[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (数字は、JIS X 0…