2020-01-01から1年間の記事一覧

『カラマーゾフの兄弟』第十一篇第十章 『それはあいつが言ったんだ!』

[#3字下げ]第十 『それはあいつが言ったんだ!』[#「第十 『それはあいつが言ったんだ!』」は中見出し] アリョーシャは入って来るといきなり、一時間ほど前に、マリヤが自分の住まいへ駈け込んで、スメルジャコフの自殺を告げたと、イヴァンに話した…

『カラマーゾフの兄弟』第十一篇第九章 悪魔 イヴァンの悪夢

[#3字下げ]第九 悪魔 イヴァンの悪夢[#「第九 悪魔 イヴァンの悪夢」は中見出し] 筆者《わたし》は医者ではないが、しかしイヴァンの病気がどういう性質のものか、読者にぜひ少し説明しなければならぬ時期が来たような気がする。少し先廻りをして、一…

『カラマーゾフの兄弟』第十一篇第八章 三度目の、最後の面談

[#3字下げ]第八 三度目の、最後の面談[#「第八 三度目の、最後の面談」は中見出し] まだ半分道も行かないうちに、その日の早朝と同じような、鋭いからっ風が起って、細かいさらさらした粉雪がさかんに降りだした。雪は地面に落ちたが、落ちつくひまも…

『カラマーゾフの兄弟』第十一篇第七章 二度目の訪問

[#3字下げ]第七 二度目の訪問[#「第七 二度目の訪問」は中見出し] スメルジャコフはその時分、病院を出ていた。イヴァンは彼の新しい住まいを知っていた。それは、例の歪みかしいだ丸太づくりの小さい百姓家みたいな家で、廊下を真ん中にして二つに仕…

『カラマーゾフの兄弟』第十一篇第六章 スメルジャコフとの最初の面談

[#3字下げ]第六 スメルジャコフとの最初の面談[#「第六 スメルジャコフとの最初の面談」は中見出し] イヴァンがモスクワから帰って以来、スメルジャコフのところへ話しに行くのは、これでもう三度目であった。あの兇行後、初めてスメルジャコフに会っ…

『カラマーゾフの兄弟』第十一篇第五章 あなたじゃない

[#3字下げ]第五 あなたじゃない[#「第五 あなたじゃない」は中見出し] アリョーシャはイヴァンの家へ行く途中、カチェリーナが借りている家のそばを通らなければならなかった。どの窓にも、灯火《あかり》がさしていた。彼はふと立ちどまって、訪ねて…

『カラマーゾフの兄弟』第十一篇第四章 頌歌と秘密

[#3字下げ]第四 頌歌と秘密[#「第四 頌歌と秘密」は中見出し] アリョーシャが監獄の門のベルを鳴らした時は、もうだいぶ遅く(それに、十一月の日は短いから)、たそがれに近かった。けれど、アリョーシャは何の故障もなく、ミーチャのところへ通され…

『カラマーゾフの兄弟』第十一篇第三章 悪魔の子

[#3字下げ]第三 悪魔の子[#「第三 悪魔の子」は中見出し] アリョーシャがリーザの部屋へはいると、彼女は例の安楽椅子になかば身を横たえていた。それは、彼女がまだ歩けない時分に、押してもらっていたものである。彼女は出迎えに身を動かそうともし…

『カラマーゾフの兄弟』第十一篇第二章 病める足

[#3字下げ]第二 病める足[#「第二 病める足」は中見出し] 用件の第一は、ホフラコーヴァ夫人の家へ行くことだった。アリョーシャは、少しでも手早くそこの用件を片づけて、遅れぬようにミーチャを訪ねようと思い、道を急いだ。ホフラコーヴァ夫人はも…

『カラマーゾフの兄弟』第十一篇第一章 グルーシェンカの家で

[#1字下げ]第十一篇 兄イヴァン[#「第十一篇 兄イヴァン」は大見出し] [#3字下げ]第一 グルーシェンカの家で[#「第一 グルーシェンカの家で」は中見出し] アリョーシャは中央広場のほうへ赴いた。彼は、商人の妻モローソヴァの家に住んでいる…

『おかしな人間の夢』

おかしな人間の夢 ――空想的な物語―― 1 おれはおかしな人間だ。やつらはおれをいま気ちがいだといっている。もしおれが依然として旧のごとく、やつらにとっておかしな人間でなくなったとすれば、これは、位があがったというものだ。だが、もうおれは今さら怒…

『おとなしい女』第二章(完)

※このテキストの校正に協力してくださった、「いとうおちゃ」さんに感謝します。 第 2 章 1 傲慢の夢 ルケリヤはたった今、このままわたしのところに住みつこうと思わない、奥さんの葬式がすんだら、早速お暇をいただくと言明した。わたしは五分ばかり跪い…

『おとなしい女』第一章

※このテキストの校正に協力してくださった、「いとうおちゃ」さんに感謝します。おとなしい女 ――空想的な物語―― 著者より わたしはまずもって読者諸君に、今度、いつもの形式をとった『日記』の代わりに、一編の小説のみを供することについて、お許しを願わ…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第七章 イリューシャ

[#3字下げ]第七 イリューシャ[#「第七 イリューシャ」は中見出し] 医師はまた毛皮の外套にくるまり、帽子をかぶって出て来た。彼は腹だたしそうな気むずかしい顔つきをしていた。それは何か汚いものに触れるのを恐れているようであった。彼はちらりと…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第六章 早熟

[#3字下げ]第六 早熟[#「第六 早熟」は中見出し]「あなたは、医者がイリューシャのことを、どう言うと思います?」とコーリャは口早に言った。「それにしても、なんていやな面でしょう、僕は医者ってものが癪にさわってたまりませんよ!」 「イリュー…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第五章 イリューシャの寝床のそばで

[#3字下げ]第五 イリューシャの寝床のそばで[#「第五 イリューシャの寝床のそばで」は中見出し] もはやわれらにとって馴染みの深いその部屋には、同じく馴染みの深い休職二等大尉スネギリョフの家族が住まっていたが、このとき狭い部屋の中は大勢の人…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第四章 ジューチカ

[#3字下げ]第四 ジューチカ[#「第四 ジューチカ」は中見出し] コーリャはもったいらしい顔つきをして塀にもたれ、アリョーシャが来るのを待っていた。実際のところ、彼はもうずっと以前から、アリョーシャに会いたかったのである。彼は子供だちから、…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第三章 生徒たち

[#3字下げ]第三 生徒たち[#「第三 生徒たち」は中見出し] けれど、コーリャにはもうこの言葉は聞えなかった。彼はやっと出かけることができた。門の外へ出ると彼はあたりを見まわし、肩をすぼめ、『ひどい寒さだ!』とひとりごちて、通りをまっすぐに…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第二章 幼きもの

[#3字下げ]第二 幼きもの[#「第二 幼きもの」は中見出し] ちょうど、この寒さの激しい、北風の吹きすさぶ十一月の朝、コーリャはじっと家に坐っていた。日曜日で学校は休みであった。しかし、もう十一時も打ったので、彼はぜひとも『ある非常に重大な…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第一章 コーリャ・クラソートキン

[#1字下げ]第十篇 少年の群[#「第十篇 少年の群」は大見出し] [#3字下げ]第一 コーリャ・クラソートキン[#「第一 コーリャ・クラソートキン」は中見出し] 十一月の初旬であった。この町を零下十一度の寒さがおそって、それと同時に薄氷が張り…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第九章 ミーチャの護送

[#3字下げ]第九 ミーチャの護送[#「第九 ミーチャの護送」は中見出し] 予審調書が署名されると、ニコライは巌かに被告のほうを向いて、次の意味の『判決文』を読んで聞かせた。何年何月何日某地方裁判所判事は某を(すなわちミーチャを)しかじかの事…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第八章 証人の陳述『餓鬼』

[#3字下げ]第八 証人の陳述『餓鬼』[#「第八 証人の陳述『餓鬼』」は中見出し] 証人の審問が始まった。けれど、筆者はもう今までのように、詳しく話しつづけることをやめよう。それゆえ、呼び出された証人が一人一人、ニコライの口から、お前たちはま…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第七章 ミーチャの大秘密――一笑に付さる

[#3字下げ]第七 ミーチャの大秘密――一笑に付さる[#「第七 ミーチャの大秘密――一笑に付さる」は中見出し]「みなさん。」彼はやはり以前と同じ興奮のていで言い始めた。「あの金は……私はすっかり白状しましょう……あの金は私のものでした。」 検事と予審…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第六章 袋の鼠

[#3字下げ]第六 袋の鼠[#「第六 袋の鼠」は中見出し] ミーチャにとってはまったく予想外な、驚くべきことがはじまった。以前、いな、つい一分間まえまでも、彼は誰にもせよ自分に対して、ミーチャ・カラマーゾフに対して、こんな振舞いをなし得ようと…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第五章 受難―三

[#3字下げ]第五 受難―三[#「第五 受難―三」は中見出し] ミーチャは気むずかしげに話し始めたが、しかし、自分の伝えようとしている事件を、ただの一カ所でも忘れたり言い落したりすまいと、前より一そう骨折っているらしかった。彼は塀を乗り越えて父…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第四章 受難―二

[#3字下げ]第四 受難―二[#「第四 受難―二」は中見出し]「ドミートリイ・フョードロヴィッチ、あなたご自分ではおわかりになりますまいが、あなたがそうして、気さくに返事して下さるので、私たちも本当に元気が出て来るというものですよ……」とニコラ…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第三章 受難―一

[#3字下げ]第三 霊魂の彷徨 受難―一[#「第三 霊魂の彷徨 受難―一」は中見出し] で、ミーチャは腰かけたまま、野獣のような目つきで、一座の人たちを眺めていた。彼は、人が何を言っているのやら少しもわからなかった。と、ふいに立ちあがって、両手を…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第二章 警報

[#3字下げ]第二 警報[#「第二 警報」は中見出し] この町の警察署長ミハイル・マカーロヴィッチ・マカーロフは、文官七等に転じた休職中佐で、やもめ暮しの好人物であった。彼は僅々三年前にこの町へ赴任して来たのであるが、もう今では世間一般の人か…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第一章 官吏ペルホーチンの出世の緒

[#1字下げ]第九篇 予審[#「第九篇 予審」は大見出し] [#3字下げ]第一 官吏ペルホーチンの出世の緒[#「第一 官吏ペルホーチンの出世の緒」は中見出し] ピョートル・イリッチ・ペルホーチンが、モローソヴァの家の固く鎖された門を力ーぱいたた…

『カラマーゾフの兄弟』第八篇第八章 夢幻境

[#3字下げ]第八 夢幻境[#「第八 夢幻境」は中見出し] やがてほとんど乱痴気騒ぎとでもいうようなものがはじまった。それは世界じゅうひっくり返るような大酒もりであった。グルーシェンカは第一番に、酒を飲ましてくれと叫びだした。 「わたし飲みた…