1993-01-01から1年間の記事一覧

『アンナ・カレーニナ』8-11~8-19(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し] コズヌイシェフがポクローフスコエ村へ到着したときは、レーヴィンにとって最も悩ましい日の一つであった。 それは農村において、最も繁忙をきわめる労働期で、百姓ぜんたいが、他のいかなる生活条件にも示すこ…

『アンナ・カレーニナ』8-01~8-10(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#2字下げ]第八編[#「第八編」は大見出し] [#5字下げ]一[#「一」は中見出し] かれこれ二ヵ月たった。もう暑い夏の半ばであったが、コズヌイシェフはやっと今ごろ、モスクワを去るしたくをととのえたばかりである。 コズヌイシェフの生活には、…

『アンナ・カレーニナ』7-21~7-31(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二一[#「二一」は中見出し] バルトニャンスキイのところで、すばらしい晩餐をごちそうになり、おびただしいコニャクを飲んだあとで、オブロンスキイは指定された時間より少し遅れて、リジヤ・イヴァーノヴナ伯爵夫人のもとを訪れた。 「伯…

『アンナ・カレーニナ』7-11~7-20(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し]『なんという驚嘆すべき女だろう、美しくて優しい、しかも気の毒な女だ』オブロンスキイといっしょに、凍った外気の中へ出ながら、彼はこう思った。 「え、どうだ? 僕がそういったろう?」レーヴィンが完全に征…

『アンナ・カレーニナ』7-01~7-10(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#2字下げ]第七編[#「第七編」は大見出し] [#5字下げ]一[#「一」は中見出し] レーヴィンはもう足掛け三ヵ月モスクワで暮していた。この方面のことに詳しい人たちの、正確無比な計算で予定されていたキチイの分娩の時期は、とっくにすぎてしま…

『アンナ・カレーニナ』6-21~6-32(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二一[#「二一」は中見出し]「いや、公爵夫人はお疲れになったらしいから、馬などには興味がおありになるまいと思うね」スヴィヤージュスキイが新しい牡馬を見たいといいだしたので、養馬場まで行こうと誘ったアンナにむかって、ヴロンスキ…

『アンナ・カレーニナ』6-11~6-20(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し] レーヴィンとオブロンスキイが、いつもレーヴィンの泊まりつけにしている百姓家へ着いたとき、ヴェスローフスキイはもうちゃんとそこにいた。彼は部屋のまんなかに腰かけて、両手を床几につっぱりながら、主婦《…

『アンナ・カレーニナ』6-01~6-10(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#2字下げ]第六編[#「第六編」は大見出し] [#5字下げ]一[#「一」は中見出し] ドリイは子供たちをつれて、妹のキチイ・レーヴィナの領地、ポクローフスコエでひと夏をすごすことになった。彼女自身の領地では、邸がすっかり崩れてしまったので…

『アンナ・カレーニナ』5-21~5-33(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二一[#「二一」は中見出し] カレーニンは、ベッチイやオブロンスキイとの話から、人が自分から求めているのは、妻を解放して、自分の存在で彼女を悩ませないようにすることであり、また妻自身もそれを望んでいることを知って以来、すっかり…

『アンナ・カレーニナ』5-11~5-20(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し] アトリエの中へ入ると、画家のミハイロフはもう一度客を見まわして、さらにヴロンスキイの顔、ことにその頬骨の表情を、自分の想像の中へとり入れた。彼の芸術家的感情はたえまなく働いて、素材を蒐集していたに…

『アンナ・カレーニナ』5-01~5-10(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#2字下げ]第五編[#「第五編」は大見出し] [#5字下げ]一[#「一」は中見出し] シチェルバーツカヤ公爵夫人は、もうあと五週間しかない大斎期《だいさいき》までに、結婚式を挙げるのは不可能と見なした。というのは、したくの半分もそれまでに…

『アンナ・カレーニナ』4-21~4-23(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二一[#「二一」は中見出し] ベッチイが広間を出るか出ないかに、新しい牡蠣《かき》の入ったエリセエフの店へ行って、そこからやってきたばかりのオブロンスキイに、戸口でぱったり出会った。 「ああ! 公爵夫人! これはいいところでお目…

『アンナ・カレーニナ』4-11~4-20(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し] 一座のものはだれもみな、この会話に仲間入りしていたが、キチイとレーヴィンだけは別であった。はじめ、一つの国民の他国民に対する影響力という問題が出たとき、レーヴィンはこの問題について、いうべき意見を…

『アンナ・カレーニナ』4-01~4-10(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#2字下げ]第四編[#「第四編」は大見出し] [#5字下げ]一[#「一」は中見出し] カレーニン夫婦は、ひきつづき一つ家に暮して、毎日顔をあわせていたけれど、お互に全くの他人同士であった。カレーニンは、召使に揣摩臆測《しまおくそく》の権利…

『アンナ・カレーニナ』3-21~3-32(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二一[#「二一」は中見出し]「僕は君を迎えに来たんだよ。今日は洗濯がばかに長かったじゃないか」とペトリーツキイがいった。「どうだい、もうすんだかい?」 「すんだよ」とヴロンスキイは、目だけで笑いながらそう答えて、口髭の先を用心…

『アンナ・カレーニナ』3-11~3-20(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し] 七月の中旬、ポクローフスコエから二十露里はなれた姉の村の組頭が、農園の状態や草刈りの報告を持って、レーヴィンのところへやってきた。姉の領地のおもな財源は、川添いの草場からあがる収入であった。ずっと…

『アンナ・カレーニナ』3-01~3-10(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#2字下げ]第三編[#「第三編」は大見出し] [#5字下げ]一[#「一」は中見出し] セルゲイ・イヴァーノヴィッチ・コズヌイシェフは、知的労働に疲れた頭を休めたいと思って、いつものように外国へ行くのをやめ、五月の終りに義弟の持ち村へやって…

『アンナ・カレーニナ』2-21~2-35(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二一[#「二一」は中見出し] 臨時厩舎になっている木造のバラックは、競馬場のすぐわきに建てられており、そこへ昨日のうちに、彼の馬が連れてこられているはずであった。彼はまだ馬を見ていなかった。この二三日、彼は自分で乗らないで、調…

『アンナ・カレーニナ』2-11~2-20(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し] ほとんどまる一年の間、ヴロンスキイにとっては、それまでのあらゆる欲望の代償となって、生活の唯一無二ともいうべき絶対的な希望を作りなしていたもの、またアンナにとっては考えることもできないほど恐ろしい…

『アンナ・カレーニナ』2-01~2-10(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#2字下げ]第二編[#「第二編」は大見出し] [#5字下げ]一[#「一」は中見出し] 冬の終りのころ、シチェルバーツキイ家では医師の立会診察が行われた。それは、キチイの健康がどういう状態にあるか、また彼女の衰えいく体力を回復するにはどうし…

『アンナ・カレーニナ』1-21~1-34(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]二一[#「二一」は中見出し] 大人たちのお茶の時間になると、ドリイは自分の部屋から出てきた。オブロンスキイは姿を現わさなかった。きっと妻の居間を裏口からぬけだしたに相違ない。 「わたしね、二階じゃあんた寒くないかと思って」ドリ…

『アンナ・カレーニナ』1-11~1-20(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

[#5字下げ]一一[#「一一」は中見出し] レーヴィンは盃を飲み干した。二人はしばらく黙っていた。 「もう一つ、君にいっておかなきゃならんことがある。君はヴロンスキイを知ってるかい?」とオブロンスキイは、レーヴィンに問いかけた。 「いや、知ら…

『アンナ・カレーニナ』1-01~1-10(『世界文學大系37 トルストイ』1958年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)

アンナ・カレーニナ Анна Каренина トルストイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)良人《おっと》|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)三千|町歩《デシャチーナ》[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の…