2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『ドストエーフスキイ全集 第13巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P360-P381

[#1字下げ]第十三篇 エピローグ[#「第十三篇 エピローグ」は大見出し] [#3字下げ]第一 ミーチャ救済の計画[#「第一 ミーチャ救済の計画」は中見出し] ミーチャの公判後、五日目の早朝まだ九時ごろに、アリョーシャはカチェリーナを訪れた。そ…

『ドストエーフスキイ全集 第13巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P328-P359

決を下して、いやが上にその声を挑発し、ますます高まりつつあるその憎悪を受くるなからんことを!………」 一言につくすと、イッポリートは非常に熱してはいたけれど、十分|感動的《パセチック》に論を結ぶことができた。実際、彼が聴衆に与えた印象はすばら…

『ドストエーフスキイ全集 第13巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P304-P327

たことであります。つまり、もはやこれ以上要求しない、父親との遺産争いはこの六千ルーブリでけりをつける、とこういう意味の書面が残っています。そのとき彼は初めて、高尚な性格と立派な教養をもった、一人の年若い処女に出くわしたのです。ああ、私はこ…

『ドストエーフスキイ全集 第13巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P280-P303

の席から叫んだ。 何といってもこの小さな逸話は、傍聴人にある快い印象を与えた。しかし、ミーチャにとって最も有別な効果を生み出したのは、カチェリーナである。が、このことはあとで述べよう。それに、全体として 〔a` de'charge〕([#割り注]被告に…

『ドストエーフスキイ全集 第13巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P261-P279

[#1字下げ]第十二篇 誤れる裁判[#「第十二篇 誤れる裁判」は大見出し] [#3字下げ]第一 運命の日[#「第一 運命の日」は中見出し] 筆者《わたし》の書いた事件の翌日午前十時、当町の地方裁判所が開廷され、ドミートリイ・カラマーゾフの公判が…

『カラマーゾフの兄弟』第8篇―第11篇(校正ずみ)   (『ドストエーフスキイ全集』第13巻(1959年、米川正夫による翻訳、河出書房新社)))

『カラマーゾフの兄弟』第8篇 カテゴリーの記事一覧 - 『カラマーゾフの兄弟』『悪霊』『アンナ・カレーニナ』『白痴』(米川正夫・訳)の完全電子化をすすめるブログ 『カラマーゾフの兄弟』第9篇 カテゴリーの記事一覧 - 『カラマーゾフの兄弟』『悪霊』…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P358-P384

ごとくこの理想一つを目ざして突進しないわけにゆかなかった。それゆえ、ときどきその他の一切を忘れてしまうことさえあった(後に自分で気がついたことであるが、彼は前日あれほどまで心配した兄ドミートリイのことを、この苦しい一日の間すっかり忘れてい…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P334-P357

か、人間の同胞的団結とかいう思想が、だんだん世の中に湮滅していって、今ではほとんど冷笑をもって迎えられるようにさえなった。実際、みずから案出した無数の欲望を満足させることにのみ馴れた囚われたる人間が、どうして自分の習慣から離れることができ…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P310-P333

講義するわけにゆかぬ。よしルーテル派やその他の異教徒が、羊の群を奪い始めようとも、勝手に奪わせるほかはない。自分らの収入が少いのだから、などと断言して憚らないものさえある。ああ、神よ、彼らのためにかほどまで貴き収入を、いま少し多分に与えた…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P282-P309

き始めた。こうした憎悪の念が、かくまで険悪な経過をとってきたのは、最初イヴァンの帰省当時、ぜんぜん反対な事実が生じたためかもしれぬ。当時、イヴァンは急にスメルジャコフに対して、一種特別な同情を示すようになったばかりでなく、彼を非常に風変り…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P258-P281

いては、もう一ことも言わないことにする。僕はわざと論題をせばめたのだ。僕は南京虫みたいなやつだから、何のために一切がこんなふうになってるのか、少しも理解することができないのを、深い屈辱の念をもって、つくづくと痛感している。つまり、人間自身…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P234-P257

「そりゃ、アレクセイさん、そのとおりですよ、その一年半の間に、あなたとリーズは幾千度となく喧嘩したり、別れたりなさることでしょうよ。けれど、わたしは喩えようもないほど不仕合せでございます。それはみんなばかばかしいことには相違ありませんが、…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P212-P233

わたくしのことを道化よばわりをしたのも、実際もっとも千万なのでございます。さあ、カラマーゾフさん、お伴いたしましょう、そして用件を片づけることといたしましょう……」 彼はアリョーシャの手を取って、部屋の中からすぐ往来へ引っ張り出した。[#3字…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P192-P211

実際ミーチャの手から『横取り』する気でいるという噂をちらほら耳にしていた。ついこの間までこの噂はアリョーシャにとって、もってのほかの奇怪至極なものに思われた。もっとも、非常に気がかりであった。彼は二人の兄を両方とも愛していたので、二人の間…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P167-P191

[#1字下げ]第四篇 破裂[#「第四篇 破裂」は大見出し] [#3字下げ]第一 フェラポント[#「第一 フェラポント」は中見出し] 朝早くまだ夜の明けないうちに、アリョーシャは呼び起された。長老が目をさましたのである。彼は非常に衰弱を感じていた…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P158-P166

び声を聞きつけて、部屋の中へ駆け込んだ。一同は彼女の方へ飛びかかった。 「ええ、帰るわ。」長椅子から婦人外套《マンチリヤ》を取りながら、グルーシェンカはそう言った。「アリョーシャ、わたしを送ってちょうだいな!」 「お帰んなさい、はやくお帰ん…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P142-P157

老人はその目の光にびくっとした。しかし、その時、ほんの一瞬間ではあったけれども、きわめて奇怪な錯誤が生じたのである。その際老人の頭から、アリョーシャの母はすなわちイヴァンの母である、という想念が脱け出してしまったらしい。 「お前の母親がどう…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P126-P141

で、甘いものと一緒にコニヤクを飲むのが好きであった。イヴァンも同じく食卓に向ってコーヒーを啜っていた。二人の下男、グリゴーリイとスメルジャコフとがテーブルのそばに立っていた。見受けたところ、主従とも並みはずれて愉快に元気づいているらしい。…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P110-P125

間てやつは自分の痛いことばかり話したがるものだよ。いいかい、今度こそ本当に用談に取りかかるぜ。」[#3字下げ]第四 熱烈なる心の懺悔―思い出[#「第四 熱烈なる心の懺悔―思い出」は中見出し]「おれはあっちにいる頃、ずいぶん放埒をつくしたものだ…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P094-P109

「わからにゃわからんでええ。しかし、それはそうに違えねえだ。もうこのさき口いきくなよ。」 そして、本当に二人はこの家を去らなかった。フョードルは夫婦の者に僅かな給金を定めて、ちびりちびりと支払うのであった。しかし、グリゴーリイは疑いもなく主…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P078-P093

想念を押しこたえることができなかった。それほど自分で自分の思いに心をひしがれたのである。彼は径の両側につらなる、幾百年かへた松の並木をじっと見つめた。その径は大して長いものでなく、僅か五百歩ばかりにすぎなかった。この時刻に誰とも出くわすは…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P062-P077

リスト教発生後二三世紀の間、キリスト教は単に教会として地上に出現していました。そして、実際、教会にすぎなかったのです。ところが、ローマという異教国がキリスト教国となる望みを起した時、必然の結果として次のような事実が生じました。ほかでもない…