『カラマーゾフの兄弟』三回目の校正終了

『ドストエーフスキイ全集 第13巻 カラマーゾフの兄弟下』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P336-P381

らした。しかも、千五百ルーブリの金を持っていた、――一たいそれでは金をどこから持って来たのだ?』と諸君はおっしゃるでしょう。けれど、千五百ルーブリだけ見つかって、あとの半分がどうしても見つからなかったという事実は、その金がぜんぜん別の金、――…

『ドストエーフスキイ全集 第13巻 カラマーゾフの兄弟下』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P288-P335

「あの人がお金を取ったからって、何にも不思議はありゃしません」とグルーシェンカは軽蔑するように、毒々しくにたりと笑った。「あの人はしょっちゅうわたしのとこへ、お金をせびりに来てましたわ。一カ月に三十ルーブリくらいずつ持って行くんですもの。…

『ドストエーフスキイ全集 第13巻 カラマーゾフの兄弟下』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P240-P287

ころから帰って来た時には、部屋の中には誰もいなかったのである)、何者か腰をかけていた。それは一個の紳士であった、いや、一そう的確に言えば、ある特殊なロシヤのゼントルマンで、もうあまり若くない、フランス人の、いわゆる”pui frisait la cinquanta…

『ドストエーフスキイ全集 第13巻 カラマーゾフの兄弟下』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P192-P239

リのために、ぱったり引っかかってしまったが、僕なら、十五万ルーブリくらいせしめて、あの後家さんと結婚してさ、ペテルブルグに石造の家でも買ってみせるよ』と言うんだ。そして、ホフラコーヴァにごまをすってる話をしてね、あの女は若い時からあまり利…

『ドストエーフスキイ全集 第13巻 カラマーゾフの兄弟下』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P144-P191

の家で見ておいたんだ、――君のためにさ、お爺さん、君のものだよ。これはあの人の家にあったって、何にもなりゃしないんだ。あの人はこれを兄弟からもらったんだからね。そこで、僕は親父の戸棚から、『マホメットの親戚、一名馬鹿霊験記』という本を引き出…

『ドストエーフスキイ全集 第13巻 カラマーゾフの兄弟下』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P096-P143

を、忘れたかったからかもしれません……そうです、まったくそのためなんですよ……ええ、ばかばかしい……幾度あなたはそんなことを訊くんです? ただでたらめを言ったのです、それっきりです。一どでたらめを言ってしまったから、もう訂正したくなかったんです。…

『ドストエーフスキイ全集 第13巻 カラマーゾフの兄弟下』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P048-P095

たような気持がいたしますわ……あなたはここで勤めていらっしゃるのでございますって? それはまあ、何より嬉しいことでございますわ……」 こう言いながら、夫人はもう半切の書簡箋に、大きな字で次の文句をさらさらと手早くしたためた。 『わたくしはいまだか…

『ドストエーフスキイ全集 第13巻 カラマーゾフの兄弟下』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P003-P047

[#3字下げ]第六 おれが来たんだ[#「第六 おれが来たんだ」は中見出し] ドミートリイは街道を飛ばして行った。モークロエまでは二十露里と少しあったが、アンドレイのトロイカは、一時間と十五分くらいで間に合いそうな勢いで疾駆するのであった。飛ぶ…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟上』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P384-P433

棺の中を見つめた。なき人は胸に聖像をのせ、頭に八脚十字架のついた頭巾をかぶり、全身をことごとく蔽われたまま、じっと横たわっている。たった今この人の声を聞いたばかりで、その声はまだ耳に響いている。彼はまたじっと耳をすましながら、なおも声の響…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟上』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P336-P383

けこの偉大なる真理をよけいに蔵しているのである。なぜなれば、彼らのうちでも金のある富農《クラーク》や百姓泣かせの連中は、すでに大多数堕落しているからである。これは主として、われわれの不注意、不行届きから起ったことである! しかし、神は自分の…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟上』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P288-P335

ところで、あの人の療治はずいぶん面白いことをするのでございます。マルファさんはある水薬を知っていて、いつも絶やさないようにしまっておりますが、何かの草をウォートカの中に浸けたきつい薬でございます。あのひとはその秘伝を知っておりますので。グ…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟上』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P240-P287

「この間もパーヴェルさんに、『臼へ入れて搗き殺すぞ』っておっしゃいましたわ」とマリヤが言い添えた。 「もし臼へ入れてなどと言ったとしても、それはほんの口さきばかりかもしれませんよ」とアリョーシャが言った。「もし僕がいま兄さんに逢うことができ…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟上』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P192-P239

実際ミーチャの手から『横取り』する気でいるという噂をちらほら耳にしていた。ついこの間までこの噂はアリョーシャにとって、もってのほかの奇怪至極なものに思われた。もっとも、非常に気がかりであった。彼は二人の兄を両方とも愛していたので、二人の間…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟上』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P144-P191

「誓って言いますよ。あのひとはここへ来やしません。それに、誰一人あのひとが来ようなどとは思っていなかったのです!」 「でも、おれはあの女をちゃんと見たんだがなあ……してみると、あれは……よし、すぐにあれがどこにいるか探り出してやる……あばよ、アリ…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟上』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P096-P143

持ちのミウーソフ家で女中を勤めていたころ、モスクワから招聘された踊りの師匠に教えられて、同家の家庭劇場で踊ったようなものであった。グリゴーリイは妻の踊りを黙って見ていたが、一時間後、自分の家へ帰って、少々髪を引っ張って彼女を懲らしめた。し…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟上』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P048-P095

今はあの人のことなぞちっとも思いはいたしません。もう家を出て三月になりますが、わたくしはすっかり忘れてしまいました。何もかも忘れてしもうて、思い出すのもいやでござります。それに、今あの人と一緒になったところで何としましょう。わたくしはもう…

『ドストエーフスキイ全集 第12巻 カラマーゾフの兄弟上』(1959年、米川正夫訳、河出書房新社)P003-P047

カラマーゾフの兄弟 フョードル・ミハイロヴィッチ・ドストエフスキー 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)筆者《わたし》|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)|解放《エマンシペーション》[#]:入力者注 …