『おかしな人間の夢』

おかしな人間の夢 ――空想的な物語―― 1 おれはおかしな人間だ。やつらはおれをいま気ちがいだといっている。もしおれが依然として旧のごとく、やつらにとっておかしな人間でなくなったとすれば、これは、位があがったというものだ。だが、もうおれは今さら怒…

『おとなしい女』第二章(完)

※このテキストの校正に協力してくださった、「いとうおちゃ」さんに感謝します。 第 2 章 1 傲慢の夢 ルケリヤはたった今、このままわたしのところに住みつこうと思わない、奥さんの葬式がすんだら、早速お暇をいただくと言明した。わたしは五分ばかり跪い…

『おとなしい女』第一章

※このテキストの校正に協力してくださった、「いとうおちゃ」さんに感謝します。おとなしい女 ――空想的な物語―― 著者より わたしはまずもって読者諸君に、今度、いつもの形式をとった『日記』の代わりに、一編の小説のみを供することについて、お許しを願わ…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第七章 イリューシャ

[#3字下げ]第七 イリューシャ[#「第七 イリューシャ」は中見出し] 医師はまた毛皮の外套にくるまり、帽子をかぶって出て来た。彼は腹だたしそうな気むずかしい顔つきをしていた。それは何か汚いものに触れるのを恐れているようであった。彼はちらりと…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第六章 早熟

[#3字下げ]第六 早熟[#「第六 早熟」は中見出し]「あなたは、医者がイリューシャのことを、どう言うと思います?」とコーリャは口早に言った。「それにしても、なんていやな面でしょう、僕は医者ってものが癪にさわってたまりませんよ!」 「イリュー…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第五章 イリューシャの寝床のそばで

[#3字下げ]第五 イリューシャの寝床のそばで[#「第五 イリューシャの寝床のそばで」は中見出し] もはやわれらにとって馴染みの深いその部屋には、同じく馴染みの深い休職二等大尉スネギリョフの家族が住まっていたが、このとき狭い部屋の中は大勢の人…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第四章 ジューチカ

[#3字下げ]第四 ジューチカ[#「第四 ジューチカ」は中見出し] コーリャはもったいらしい顔つきをして塀にもたれ、アリョーシャが来るのを待っていた。実際のところ、彼はもうずっと以前から、アリョーシャに会いたかったのである。彼は子供だちから、…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第三章 生徒たち

[#3字下げ]第三 生徒たち[#「第三 生徒たち」は中見出し] けれど、コーリャにはもうこの言葉は聞えなかった。彼はやっと出かけることができた。門の外へ出ると彼はあたりを見まわし、肩をすぼめ、『ひどい寒さだ!』とひとりごちて、通りをまっすぐに…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第二章 幼きもの

[#3字下げ]第二 幼きもの[#「第二 幼きもの」は中見出し] ちょうど、この寒さの激しい、北風の吹きすさぶ十一月の朝、コーリャはじっと家に坐っていた。日曜日で学校は休みであった。しかし、もう十一時も打ったので、彼はぜひとも『ある非常に重大な…

『カラマーゾフの兄弟』第十篇第一章 コーリャ・クラソートキン

[#1字下げ]第十篇 少年の群[#「第十篇 少年の群」は大見出し] [#3字下げ]第一 コーリャ・クラソートキン[#「第一 コーリャ・クラソートキン」は中見出し] 十一月の初旬であった。この町を零下十一度の寒さがおそって、それと同時に薄氷が張り…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第九章 ミーチャの護送

[#3字下げ]第九 ミーチャの護送[#「第九 ミーチャの護送」は中見出し] 予審調書が署名されると、ニコライは巌かに被告のほうを向いて、次の意味の『判決文』を読んで聞かせた。何年何月何日某地方裁判所判事は某を(すなわちミーチャを)しかじかの事…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第八章 証人の陳述『餓鬼』

[#3字下げ]第八 証人の陳述『餓鬼』[#「第八 証人の陳述『餓鬼』」は中見出し] 証人の審問が始まった。けれど、筆者はもう今までのように、詳しく話しつづけることをやめよう。それゆえ、呼び出された証人が一人一人、ニコライの口から、お前たちはま…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第七章 ミーチャの大秘密――一笑に付さる

[#3字下げ]第七 ミーチャの大秘密――一笑に付さる[#「第七 ミーチャの大秘密――一笑に付さる」は中見出し]「みなさん。」彼はやはり以前と同じ興奮のていで言い始めた。「あの金は……私はすっかり白状しましょう……あの金は私のものでした。」 検事と予審…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第六章 袋の鼠

[#3字下げ]第六 袋の鼠[#「第六 袋の鼠」は中見出し] ミーチャにとってはまったく予想外な、驚くべきことがはじまった。以前、いな、つい一分間まえまでも、彼は誰にもせよ自分に対して、ミーチャ・カラマーゾフに対して、こんな振舞いをなし得ようと…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第五章 受難―三

[#3字下げ]第五 受難―三[#「第五 受難―三」は中見出し] ミーチャは気むずかしげに話し始めたが、しかし、自分の伝えようとしている事件を、ただの一カ所でも忘れたり言い落したりすまいと、前より一そう骨折っているらしかった。彼は塀を乗り越えて父…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第四章 受難―二

[#3字下げ]第四 受難―二[#「第四 受難―二」は中見出し]「ドミートリイ・フョードロヴィッチ、あなたご自分ではおわかりになりますまいが、あなたがそうして、気さくに返事して下さるので、私たちも本当に元気が出て来るというものですよ……」とニコラ…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第三章 受難―一

[#3字下げ]第三 霊魂の彷徨 受難―一[#「第三 霊魂の彷徨 受難―一」は中見出し] で、ミーチャは腰かけたまま、野獣のような目つきで、一座の人たちを眺めていた。彼は、人が何を言っているのやら少しもわからなかった。と、ふいに立ちあがって、両手を…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第二章 警報

[#3字下げ]第二 警報[#「第二 警報」は中見出し] この町の警察署長ミハイル・マカーロヴィッチ・マカーロフは、文官七等に転じた休職中佐で、やもめ暮しの好人物であった。彼は僅々三年前にこの町へ赴任して来たのであるが、もう今では世間一般の人か…

『カラマーゾフの兄弟』第九篇第一章 官吏ペルホーチンの出世の緒

[#1字下げ]第九篇 予審[#「第九篇 予審」は大見出し] [#3字下げ]第一 官吏ペルホーチンの出世の緒[#「第一 官吏ペルホーチンの出世の緒」は中見出し] ピョートル・イリッチ・ペルホーチンが、モローソヴァの家の固く鎖された門を力ーぱいたた…

『カラマーゾフの兄弟』第八篇第八章 夢幻境

[#3字下げ]第八 夢幻境[#「第八 夢幻境」は中見出し] やがてほとんど乱痴気騒ぎとでもいうようなものがはじまった。それは世界じゅうひっくり返るような大酒もりであった。グルーシェンカは第一番に、酒を飲ましてくれと叫びだした。 「わたし飲みた…

『カラマーゾフの兄弟』第八篇第七章 争う余地なきもとの恋人

[#3字下げ]第七 争う余地なきもとの恋人[#「第七 争う余地なきもとの恋人」は中見出し] ミーチャは例の大股で、急ぎ足にぴったりとテーブルのそばへ近づいた。 「みなさん」と彼は大きな声でほとんど叫ぶように、とはいえ、一こと一こと吃りながら口…

『カラマーゾフの兄弟』第八篇第六章 おれが来たんだ

[#3字下げ]第六 おれが来たんだ[#「第六 おれが来たんだ」は中見出し] ドミートリイは街道を飛ばして行った。モークロエまでは二十露里と少しあったが、アンドレイのトロイカは、一時間と十五分くらいで間に合いそうな勢いで疾駆するのであった。飛ぶ…

『カラマーゾフの兄弟』第八篇第五章 咄嗟の決心

[#3字下げ]第五 咄嗟の決心[#「第五 咄嗟の決心」は中見出し] フェーニャは祖母と一緒に台所におった。二人とも寝支度をしているところであった。彼らはナザールを頼みにして、今度も内から戸締りをしないでいた。ミーチャは駆け込むやいなや、フェー…

『カラマーゾフの兄弟』第八篇第四章 闇の中

[#3字下げ]第四 闇の中[#「第四 闇の中」は中見出し] 彼はどこへ駆け出したのか? それは知れきったことである。『おやじの家でなくって、ほかにあれのいるところがない。サムソノフの家からまっすぐに親父のところへ走ったのだ。今となっては、もう…

『カラマーゾフの兄弟』第八篇第三章 金鉱

[#3字下げ]第三 金鉱[#「第三 金鉱」は中見出し] それは、グルーシェンカがラキーチンに向って、さもさも恐ろしそうに話して聞かせたミーチャの来訪である。そのころ彼女は、例の『知らせ』を待っていたので、昨日も今日もミーチャが姿を見せないのを…

『カラマーゾフの兄弟』第八篇第二章 レガーヴィ

[#3字下げ]第二 レガーヴィ[#「第二 レガーヴィ」は中見出し] こういうわけで、すぐさま『飛び出し』て行かなければならぬが、馬車賃が一コペイカもなかった。いや、実際は十コペイカ銀貨が二つあったが、これが幾年かの贅沢な生活の名残りなのである…

『カラマーゾフの兄弟』第八篇第一章 商人サムソノフ

[#1字下げ]第八篇 ミーチャ[#「第八篇 ミーチャ」は大見出し] [#3字下げ]第一 商人サムソノフ[#「第一 商人サムソノフ」は中見出し] グルーシェンカが新生活を目ざして飛んで行く時、自分の最後の挨拶を伝えるように『命令し』、かつ自分の愛…

てんとう虫版『ドラえもん』収録作品の初出データ一覧(圧縮版、1巻~45巻)

※以下リストを作るとき、「ドラちゃんのおへや」の以下のサイトの資料を参考にさせていただきました。深く感謝します。コミックスについて(てんとう虫コミックス)※作成に約450分かかりました 1 1 1 1 題名 ページ数 掲載年月日 注釈 未来の国からはる…

ドストエーフスキー全集(1969年―1970年、河出書房新社版) 目次(書簡などを収録した17巻―23巻は記載していない)

『ドストエーフスキイ全集』全20巻(1969年―1971年、筑摩書房、米川正夫による翻訳) 目次 第1巻 貧しき人々 005 分身 133 プロハルチン氏 281 九通の手紙に盛られた小説 313 主婦 327 ポルズンコフ 401 解説 419第2巻 スチェパンチコヴォ村とその住人 003…

『ドストエーフスキイ全集10 悪霊 下』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP193-217

全体として、彼はしじゅう勝ち誇ったような状態になっていた。彼女は山上の垂訓を通読した。 「Assez, assez, mon enfant(たくさんだ、たくさんだ、わが子よ)たくさんです……いったいあなたはこれだけ[#「これだけ」に傍点]でも不十分だと思うんですか?…